用心棒

 古典にしてすべてを備えた娯楽名作であり、おもしろすぎる。
 黒沢のほうが本家なのに、どうにもこうにも西部劇すぎる映像がおもしろいね。風が吹き荒れ砂埃が舞う静かな街に、浪人とヤクザがいてクルクル回るあの謎の草がないのがふしぎ。
 小さな宿場町の覇権を争っている二つのヤクザ組織の間にフラリとやって来て、行ったり来たりでちょこちょこ小細工をしつつ潰し合わせようと画策する桑畑三十朗のキャラクターがおもしろいね。彼は浪人・用心棒であり、武士らしい所作振る舞いはしていない。正義の塊でも、義理人情に厚いようにも見えないけれど、ニヤリと笑ってあっちこっちでいろいろ仕掛けをしていく様子がおもしろい。どっちの組織にも目をかけられているのをいいことに、火の見櫓から大胆不敵に抗争を眺め、平気で嘘をつき、普段は悠々としていてもいざとなれば素早く果断に策を弄するところがかっこいい。
 窓を閉めて息を潜めて暮らす宿場町の人々。飯屋で町の状況を聞いていると、外の様子は見えないのに、棺桶屋が棺桶を作る音や、御題目をあげている太鼓の音が聞こえてくるところが好き。
 いかにも用心棒風に振舞っていた先輩の浪人が、いざ抗争が始まると悪びれるでもなくさっさと逃げ出すところが好き。それに気がついた桑畑三十朗は、先輩用心棒を嘲るでもなく手を上げて見送り、先輩用心棒も「じゃ、お先に」とでも言うように軽く手を上げて挨拶するとスタコラと去っていく。
 ひとり馬鹿でかいヤクザがいて、見た目がジャイアント馬場かなーと思っていたら、違う人らしい。羅生門綱五郎っていうのか。
 この頃の時代劇って、人を斬るときのあの「ズバブシュ」っていう効果音がないのね。この映画にあの効果音は必要ではないような、でもピストルは派手に音がするからあったらあったでおもしろいような気もする。あと、ものすごく音声が聞き取りづらいので、邦画なのに日本語字幕つき。DVDはありがたいものだ。