ノー・マンズ・ランド

 粗筋からは相当イヤな重々しい映画(トム・ゴドウィン『冷たい方程式』みたいな過酷な現実を見せられたり)を想像してたけど、思ってた重さとは全然違うのでビックリしますね。間の悪いことがとことん重なって状況がどんどん悪いほうに転がっていくブラックな笑いは、ちょっとコーエン兄弟みたいだなーと思った。
 一見牧歌的な野原の風景が、セルビア軍とボスニア軍の中間地点(ノー・マンズ・ランド)というところがおもしろいね。見晴らしがよいだけに、ちょっと迷い込んだだけで睨み合いを続ける両軍から撃たれて蜂の巣にされる場所に、いろいろ間の悪いことが重なってセルビア軍兵士とボスニア軍兵士が居合わせるハメに。おまけに、死体を使ったブービートラップを作ったつもりが死体じゃなくて気絶してただけだったり、国連防護軍がマスコミを引き連れてやってきたりしてギャワー。
 最初はお互い殺し合おうとしていたセルビア軍兵士とボスニア軍兵士は、助かるために協力し合っているから友情が芽生えちゃったりするのかなーと思ってみてたら、国連軍が助けに来たあたりから急速に互いを憎悪し合うようになってしまうのでビックリしますね。なるほど、これが憎悪の連鎖なのか。どっちが始めたとか、どちらが悪いとかじゃなくて、もうどうにも止まらない勢いで憎悪だけが掻き立てられてゆく。武器を突きつけて「どちらが始めた?」と聞くときに、自分が悪いなんて誰も思わないし、自分が悪いなんて言わせやしないのだ。
 国連軍が助けに来たのに、けっきょく殺し合ってしまう兵士たち。地雷処理を諦めて去ってゆく国連軍とマスコミ、地雷とともに残された兵士を残して映画は終わる。後味の悪い終わり方であると同時に、間抜けなコントのような幕切れでもある。もう笑うしかないような最悪なオチだから、やっぱり笑っておくしかないのかなー。