未来世紀ブラジル

 情報省が書類のミスで誤認逮捕をしつつ拷問で容疑者を殺していたり(お金がかかるので費用は被疑者持ちという魔女裁判システム)、爆弾テロがすごい勢いで横行したりしているものすごいディストピアな世界なのに、なんかあんまりイヤなかんじがしないのでふしぎ。主人公サムにしても、彼のファム・ファタールであるジルにしても、この世界はそうゆうもんだと受け入れてしまっているからじゃろか。レストランで食事中に後ろの席でテロが起きても気にせず食事をつづけるし、子供は逮捕ゴッコして遊んでるし。サムはヒロイック・ファンタジーのような夢の中で自由を得ようと葛藤しているようにも見えるけれど、目覚めたサムは女のことしか憶えちゃいないのでダメすぎる。
 サムが夢で見た女そっくりなジルを追いかけることで物語は進んでいくのだけれど、恋愛一直線で自分や周りが見えてないサムには全然感情移入できないんじゃよねー。ってゆうか、今まで碌な恋愛の経験がないのかストーカーじみた情熱を持て余しながらすごい勢いで空回る迷惑な人であり、粛々と勤めてきた情報省の仕事を擲って身を滅ぼした変な人。すごいバッドエンドだったけれど、サムはやりたい放題やって気持ちよくいい夢見れたんだからよかったんじゃないの?と思わないでもない。なんかサンバのリズムでたのしげなエンディングだし。
 モグリの暖房修理人タトルがかっこよすぎる。書類仕事や管理されるのがイヤで違法にも関わらず個人で暖房修理を請け負うタトルは、「サーヴィス」への修理依頼の電話を傍受して勝手に修理にやって来る。素晴らしい手際で修理を終えると、颯爽と夜の闇へ消えていくその姿は、アメコミのヒーローみたいで痺れるし憧れる。俺の旗の下に、俺は自由に修理するのか? サムが妄想の中で、救い手にタトルを選んだのはわかりすぎる。ラペリングアサルトライフルの似合う暖房修理人。ってゆうか、ロバート・デ・ニーロが演じていたなんて、クレジット見るまで気がつかなかった。
 「未来世紀」はともかく、なにが「ブラジル」なのかサッパリわからねー。