アリス

 ヤン・シュヴァンクマイエル監督のやつ。むかしテレビの深夜放送で見て、ストップモーションアニメと人間の組み合わせのグロさに仰天した覚えがあるのだけれど、改めて見るとそんなにグロくないね。記憶の中でかなりグロ化していたみたい。いや、やっぱりけっこうグロテスクなんだけれど(奇妙な物体がぎこちなく這いずり回る)、グロさの中に可愛さが窺えるところが好き。
 全体的にくすんだ、使い古したような色合いで、『不思議の国のアリス』をモチーフにしている映像作品だから原色かパステルカラーの世界を想定していると面食らう。屋外ではなく(いくつか屋外のシーンもあるけれど)、屋内を舞台にしているのもポイントじゃろかー。原作のテニエルの挿絵とか、十九世紀のイギリスの風景を思い浮かべるとピッタリな気がする。BGMがなくて、ドアや引き出しの軋む音とか、金属の甲高い音、ガラスの割れる音なんかが大きいところもいい。
 原作のナンセンスなところ(謎々とか詩)ではなく、ハチャメチャなところ(アリスが大きくなったり小さくなったり)に特化して翻案しているところが好き。めくるめく映像を堪能できた。
 原作ではウサギの穴に落ちるところを、エレベーターに変えているところがおもしろい。アリスが壁の棚にあるものをじっくり吟味しているところとか、なるほどなーと思う。
 アリスが引き出しを開けようとするたびに取っ手が取れるという繰り返しのギャグが好き。穴に指を入れて引っ張ったり、鋏でこじ開けたり、アリスも大変だ。
 アリスの冒険のきっかけになるウサギの造形がすばらしい。剥製のウサギが手に打ち付けられた釘を引き抜いて、オシャレに着替えをしている。剥製だからおがくずが詰められていて、怪我をすると血ではなくおがくずが流れ出る。腹に裂け目が出来ていて、文字通り懐から懐中時計を取り出して、おがくずで汚れた文字盤をぺろりと舐める。見た目はマイケル原腸『アリスったらもお!』に出てくるウサギみたい。
 アリスは頻繁に大きくなったり小さくなったりするけれど、客観的にアリス自身が小さく(人形)になったり、主観的にアリスの周りのものが大きくなることで小さくなったりと、見せ方がいろいろで楽しい。