• ロシアに届かなかった手紙
    • ロシアにいる知人(恋人?)に亡命先のベルリンの素晴らしい風景を紹介し自分は幸福だと書きながら、話は突然墓地で自殺した亡命ロシア人の老婆のことになる。それでも自分は幸福(それは挑戦であるともいう)だと書く書き手。『ロシアに届かなかった手紙』という題名は、最早失われた愛する祖国ロシアそのものに向けて書かれた手紙のことなんじゃろか。
  • けんか
    • ヨーロッパを舞台にした小説で海水浴の場面が出てくると、自分が子供のころ体験した芋洗い状態の海水浴とあまりにも違うので、ものすごい違和感を覚える。バカンスという概念や海の傍で暮らしている人の生活なんて想像の埒外だから、新聞や小説を読みながら日光浴してる人なんて想像できないにゃー。わしが海のない県の出身だからじゃろかー。
  • チョールブの帰還
    • 自分の頭の中にある死んだ妻との想い出と、現在の目に見えている街を重ね合わせる手法はナボコフならでは。妻が死んだと言い出せずに「妻は病気だ」と妻の両親に告げて、想い出のホテルに戻るチョールブ。妻と泊まった想い出のために娼婦を買い一緒に寝てもらうも、隣で寝る娼婦を妻の幽霊だと勘違いして絶叫。そこに妻の両親が駆けつけ、ドアを開ける。妻の両親を案内してきたホテルの従僕は耳をそばだてるが部屋の中からは何も聞こえないところが、この話のキモじゃろか。凍ったような部屋の中の様子がありありと想像できる。凄惨ながらおもしろすぎる結末ですごく好き。