短篇集を読む

やっと終わり。長くかかったけれど、ちょっとずつ読みながら自分の中で噛み砕いてはじめておもしろさのわかる作品も多くて、短篇集ならこうゆう読み方も悪くない。しばらく間を空けてから2巻に進むか、もう一回『ナボコフの一ダース』を読み返してみるか。 …

悪い日 ピョートルが気取り屋なのはどうしようもないことなので、どうしようもないなーと思った。明らかな理由はないが周囲から浮いている子供っているんじゃよねー。その子が「気取り屋」なのは、子供のくせに子供らしくしようと意識してしまうからなんじゃ…

じゃがいもエルフ 前半で印象深かった描写が後半にも立ちあらわれて、いくつもの場面が反響しあっていて美しい。小人が田舎にひきこもって、祖父と生活している風を装いながらときどきカツラをつけて子供として振舞っているところや、ただ一度の不倫で出来た…

名誉の問題 決闘なんか流行らない時代に、決闘なんかに縁のなさそうな男が、ひょんなことから決闘をするハメになる。酔ったはずみで言い出した決闘だけれど、まわりがまるでお祭り騒ぎのように乗り気でどんどん事態が進行して段取りが整えられてゆく一方で、…

剃刀 復讐を胸に秘めた床屋が、今まさに復讐の対象者の髭を剃りながら恨みつらみを述べるというのはわりとよくあるシチュエーションだけれど(実際小説とか映画とかであるのかどうかは知らないけれど、もうどこかで使われていそうという意味で)、床屋に入っ…

ベルリン案内 「電車に乗ってベルリン観光をした」という話を詳細に飲み仲間に語って聞かせると、おもしろくないといわれる。「きみが、どう路面電車に乗ってベルリン水族館に行ったかなんてことを、誰が気にするのかね?」 それに対して語り手は、自分の記…

ロシアに届かなかった手紙 ロシアにいる知人(恋人?)に亡命先のベルリンの素晴らしい風景を紹介し自分は幸福だと書きながら、話は突然墓地で自殺した亡命ロシア人の老婆のことになる。それでも自分は幸福(それは挑戦であるともいう)だと書く書き手。『ロ…

短篇集って、いちいち全部感想考えながら読むとけっこう大変なんだなあと思いながら、今日もメモ。おもしろければそんなに苦にならないし。 バッハマン 狂った音楽家と老婦人の間には、ほんとに愛があったのかはわからないけれど、興行師ザックのいい加減な…

ラ・ヴェネチアーナ だんだんおもしろくなってきた。ひたすらオミソな役所のシンプソン君とマゴア氏の絵画鑑賞をめぐるやりとりは、のちの仕掛けとして作用しているという面を省いても絵の見方としておもしろいと思うのは、ぼくが絵画鑑賞にサッパリ興味がな…

恩恵 売れない絵葉書を並べて客が来るのを待ち続ける老婆に、来ない恋人を待ち続ける自分自身を重ね合わせる青年。青年の一人称による老婆の描写(なんでもないことを普通に描写していて楽しい)に、待ち続ける青年自身の気持ちが織り込まれていて、その人に…

偶然 列車の食堂車で給仕として働く夫と、それを知らずに彼を追って乗客として乗っている妻。同じ列車に乗り合わせたのも偶然ならば、互いに気づかずすれ違うのもまた偶然で、すべてが綿密な偶然に支配されている様子は、ルージンが自殺を考えるときにチェス…

神々 今更だけど、寝る前の一番眠いときにナボコフの短篇を読むのは非常に勿体ないんじゃないじゃろかー。初期作品にはまだ『ナボコフの一ダース』級の作品がないから寝惚け眼でもなんとか読めるのだけれど。というわけで、感想はまたあとで。 形容詞ばっか…

翼の一撃 スキー場、そこは様々な人たちが互いをよく知ることもなく刹那の出会いと社交を演じる場所。男は妻を亡くして自暴自棄になっており(始終自殺を仄めかす)、女王然として君臨する女は男に素っ気無い。そして男にまとわりつくのはひたすら神の存在を…

響き 過剰とも思える描写がうるさいかなーと思ったけれど、恋をしている若々しい青年の一人称だとむしろ自然に思えるのでふしぎ。恋人の描写に熱が入るのはわかるけれど、パッとしないオッサンであるパル・パルィチの描写(とくに顔の描写から勝手に内面に入…

一気に読むと大変そうなので、ちょっとずつ読むことにする。 森の精 ある日やってきた見知らぬ浮浪者(しかし、確かに知っている)が語る遍歴の物語は、ロシア革命が及ぼした様々な影響を想起させる。薄汚く汚れてしまった精霊は、子供時代との決別というよ…