短篇集って、いちいち全部感想考えながら読むとけっこう大変なんだなあと思いながら、今日もメモ。おもしろければそんなに苦にならないし。

  • バッハマン
    • 狂った音楽家と老婦人の間には、ほんとに愛があったのかはわからないけれど、興行師ザックのいい加減な話を語り手が補填し再生したふたりの物語は美しい。真相などくそくらえ、そこにあるものが物語なのだと思う。
  • ドラゴン
    • 広告がペタペタ張ってあれば、たとえそれが本物のドラゴンであっても人々には偽物にしか見えない。そして偽物にさせられた本物のドラゴン(人間を貪り食う)が、偽物の騎士(サーカスの興行の一員)に恐れをなして逃げ去るのもまた、納得が出来る話なのだ。
  • クリスマス
    • 死んだ息子と過ごした風景や遺品を見ながら、息子の想い出に浸る父親。息子の残した日記から、彼の知らない息子の姿が浮かび上がり、想い出の氾濫に耐え切れなくなった父親は啜り泣く。クリスマス・イヴだというのに死が邸内を満たす中、息子が生前大切にしていたがもうとっくに中の蛹は死んでいるとばかり思い込んでいた繭が割れ、皺だらけの生き物が這い出し、次第に羽根を広げる息を呑むような美しい描写。ぼくは素晴らしく美しいと思ったけれど、蝶とか蛾が死ぬほど嫌いな友人が読んだらどう思うんじゃろかーとちょっと思った。