トーマス・パヴェル『ペルシャの鏡』 工作舎

ペルシャの鏡 (プラネタリー・クラシクス)ペルシャの鏡 (プラネタリー・クラシクス)
トーマス パヴェル Thomas Pavel

工作舎 1993-03
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ルーマニアボルヘス」という売り文句に惹かれて買ったのだけれど、「○○のボルヘス」と「ガルシア=マルケス絶賛」だけは信用しちゃいけないとも思っているリトルおろかなわし。

ライプニッツの思想がまったくわからんのだが、「可能的世界」というのは並行世界のことでええんじゃろかー。鏡をキーワードにして世界が増殖するというのでボルヘスの「鏡と交合は人間の数を増殖するがゆえにいまわしい」という言葉から「ルーマニアボルヘス」という売り文句を持ってきたみたい。作中作がたくさん出てきて、作中作と物語が鏡像のようになっているのもボルヘスっぽいのかにゃー。こうゆう個々の要素それぞれにボルヘスっぽさは感じなかったのだけれど、これはこれでおもしろい。

なんとゆうか、盛り上がりに欠ける物語なんだけれど、その盛り上がらなさがおもしろい。主人公のルイは平凡な生活の中で「ありえたかもしれない別の世界」を、あるいはライプニッツの弟子の日記に見たり、あるいは異端審問官の告白に見たり、あるいは出版されなかった本に見たり、あるいは結末が2種類ある脚本に見たり、あるいは自作の小説に見たりするのだけれど、同じモチーフの別の物語が語られてとくに収拾するわけじゃないのがすごく好き。自作の小説に至っては、もういいやとばかりに結末を投げ出す始末。4章の末にある「自ら創造した者達をコントロールできない。これこそまさに神の特権なのだから」という言葉でうまく言っていると思う。ライプニッツの能天気な世界観に相応しい、哲学的なんだけれどなんとなく能天気な話ですごくいい。