ウラジーミル・ナボコフ『ディフェンス』 河出書房新社

ディフェンス

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チェス小説アンソロジー『モーフィー時計の午前零時』がおもしろすぎたので再読。『記憶よ、語れ』で印象的だったフランス人家庭教師や『マーシェンカ』のアルリョーロフ夫妻が出てたり、終盤でルージンが魅せる禁じ手「突然美容室でマネキンを買う」にも反復する要素があったり、やはり記憶の作家ナボコフは読めば読むほど味が出るとわかった。曖昧模糊とした世界をチェスで区切るなら、運命がわけがわからんことよりも、運命の手筋がわかってしまうことがおそろしすぎておもしろすぎる。

ルージンがチェスを忘れてからの、いつチェスを思い出すのかというドキドキと、チェスを思い出してしまってからの猛攻を受ける必死さが好き。

あの印象的な「突然美容室に入ってマネキンをくれと言う」場面も、おそろしく巧緻にしくまれていた。

あらゆる棋譜を覚えていると、すべてがコンビネーションに見えてくる。チェス的思考が蘇り、痕跡が行く道を示す。ルージンはゲームから降りることしかできない。チェス・プロブレムのように解決できない妄想チェス合戦。

世界を切り取る方法がチェスならば、見えないことよりも、あまりにハッキリ見えてしまうことが残酷。読んだり読まれたりとか苦手だからわからんが。