アーサー・マッケン『白魔』 光文社古典新訳文庫

●アーサー・マッケン『白魔』 光文社古典新訳文庫

白魔 (光文社古典新訳文庫)

白魔 (光文社古典新訳文庫)

ラヴクラフト大好きッコなので読んでみた。同じくラヴクラフトつながりで読んだダンセイニはいまいちおもしろさがわからなかったけど、マッケンは大丈夫。

考えてみるに、想像力が絶望的に貧困なので、ダンセイニみたいに延々異世界の描写ばかりだと何描かれてるかわかんなくて疲れてしまうんだと思う。つまり、僕は確実に夢想家失格だと言い切れる。

マッケンは『白魔』にしても『生活のかけら』にしても、幻想や非日常が主題だけれどそれ一辺倒ではなく、日常から見てなんだかわからないものがなんだかわからないままに垣間見えるところがすごくいい。確実だと思っている現実が何かの拍子にフッと揺らぐ、堅実な生活の裏に得体の知れない何かが蠢いている、そうゆう二重性を求めてラヴクラフトを読んでることがわかった(今更)

『白魔』前後の第三者的な説明なしで、手記だけで十分おもしろい。怪しい乳母の手ほどきで、自覚なく魔女になっていく様子がすごくいい。アンドレイ・コドレスク『血の伯爵夫人』の中で、エリザベート・バートリが女たちから秘儀を伝授されるところを思い出す。あと、フリッツ・ライバー『妻という名の魔女たち』で、男たちが知らないところで、お呪いの延長上で魔術が繰り広げられているような世界。男たちが知らない女なのかー。
ラヴクラフトの短篇によくある一人称手記って、わけのわからんものをわけのわからんままに描くのにピッタリすぎだと再確認した。なんだあの手は!窓に!窓に!(悠長に書き留める)
あと、乳母の話す魔女のエピソードがいちいち不気味すぎ。

『生活のかけら』郊外に住む普通の夫婦の生活感溢るるお話が、いつの間にやら「あっちの世界」の話になってしまうからおそろしいぜ。主人公夫婦が頭がおかしくなってゆく過程かと思って読んでたら、別口で怪しい宗教に引っかかって頭がおかしくなる人が出てくる(頭がおかしいと断定される)から違うらしい。でも、主人公夫婦と電波さんの違いがあんまりわからないリトルおろかなわし。同じ風景の中に違う景色を見るところは、カルヴィーノ『マルコヴァルドさんの四季』を思い出したりもした。

『薔薇園』『妖術』『儀式』 あんまりピンと来なかった。