ハインリヒ・フォン・クライスト『チリの地震』 河出文庫
- 作者: ハインリヒフォン・クライスト,Heinrich von Kleist,種村季弘
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1996/10
- メディア: 文庫
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解説にある「物質として手につかめるほど濃縮されている文章」というのは、クライストの小説の質を的確にあらわしすぎ。濃縮された文章が描くのは、天災・すれ違いなどの運命に翻弄される人々の奇譚であり、ギュッと濃縮して粗筋寸前にまでして短篇として仕上げているのがおもしろい。J・G・バラードの濃縮小説『残虐行為展覧会』と同じように、場面場面のイメージが鮮明に焼き付けられる。あと、バルガス=リョサ『フリアとシナリオライター』のカマーチョせんせいの描く荒唐無稽な話にもちょっと似てる。
『チリの地震』地震という、まさに天災の中で流転しすぎな運命が悪戯なキスなのかー?死刑→地震と来て、助かったことにホッとして教会に行ったら暴徒におそわれてギャワー。ギャワーとしか言いようがなさすぎる。
『聖ドミンゴ島の婚約』ハイチの独立って、カルペンティエルも『この世の王国』で描いてたけどすごいことになっていたのね。騙すことを前提に始まった恋は真の愛になったのに、状況は真実を許さずに嘘で覆い隠してしまう。すれ違いの悲劇だが、男に誠意があったかは、わりと怪しいかも。
『ロカルノの女乞食』情けをかけるなら、最後まで面倒みないと大変なことになりすぎ。
『拾い子』昼メロが裸足で逃げ出すような、凄まじいまでの運命の悪戯、これは断じて御都合主義ではないのだ。憎いアイツを殺すだけでは飽きたらず、告解を拒否することでアイツのいる地獄に落ち、あの世でも更に復讐を果たそうという決意がすさまじい。
『聖ツェツィーリエあるいは音楽の魔力』ありがちな奇跡の話だけれど、濃密な文章で書かれるとかっこいいにゃー。
『決闘』ドンデン返しに次ぐドンデン返しが気持ちよすぎる。神の審判を仰ぐための決闘に負けて、一体この先どうなるんだろうと読み進めると、驚愕の真実が判明してウットリしてもうたー。神よ御照覧あれ、負けたと思うまで負けじゃないという屁理屈がここまで燦然と光り輝く話は読んだことねー!
あと、敵役もある意味騙されてたから被害者だよなと思ってたら、ちゃんと神罰を喰らうだけの悪事をしてたから安心。
『話をしながらだんだんに考えを仕上げてゆくこと』話してると考えがまとまることってあるよねーというエッセイに、「未完」というオチがついててずっこける。
『マリオネット芝居について』エッセイ。動物と操り人形最強説であり、こんな時代から押井守『イノセンス』を先取りしてただなんて! クライスト…おそろしい子!