ジョアン・フォンクベルタ/ペレ・フォルミゲーラ『秘密の動物誌』 ちくま学芸文庫

秘密の動物誌 (ちくま学芸文庫)

秘密の動物誌 (ちくま学芸文庫)

同じ作者による『スプートニク』も、、「存在しないものを存在したことにする」という変なことをしていて楽しかったことを思い出す。現実史実の写真にあとからもっともらしく付け加えた上で、捏造したものを削除することにより、もともとはなかった「空白」を意識させるという手法にメロメロだったんじゃよねー。

『秘密の動物誌』でも、「存在しないものを存在したことにしてしまう」、そのための手練手管が楽しすぎる。写真や標本、鳴き声まで捏造するのがすごくいい。

文献や伝承の中の生物を発見・解剖・分類してしまった博物学者は、『鼻行類』を発見しちゃったシュテュンプケ博士を知っていたからおそろしいぜ。

ミルハウザー『バーナム博物館』が素晴らしいのは、胡散臭い生き物たちを暗がりに置いて、胡散臭いままにしておいたことだった。胡散臭い生き物たちを日の光に晒したら、それはただの分類整理すべき新種の生物に過ぎないのかと思ってたけど、胡散臭い生き物は日の光の下でもやっぱり胡散臭いままでした。

集められた動物たちが、完全な創作ではないのがポイントじゃろか。伝承や文献などの中で、「見たことないけど存在する動物」に、写真や資料という形を与えること。形があるということは、それがどんなに胡散臭いものであれ、胡散臭いままに確かに存在するということなのだ。「存在しないことは証明できない」という悪魔の証明の逆が楽しすぎる。

胡散臭すぎる合成生物の中に、うっかり「カモノハシ」が混じってるからおそろしいぜ。あと、「ヴォーパル・バニー」。博士の死因はクリティカルヒットで首を刎ねられたからに違いないんじゃよー!はやくオックおばさんの聖なる手榴弾持って来てー!

日本にも河童やら人魚やら鬼やらケセランパサランやらの標本は沢山あるから、秘密の動物誌を作ればいいのに。