ディボース・ショウ

 相変わらず登場人物に感情移入を許さないコーエン兄弟映画であり、離婚訴訟専門弁護士と離婚で資産を増やす女の恋という話(ハートが有刺鉄線で出来ているのがおもしろい)にはこの距離感がピッタリじゃよね。
 いろんな場面に出てくる婚前協議書の扱いがおもしろいね。結婚前から離婚後の財産分与を決めておく婚前協議書は訴訟社会のアメリカそのものであり、愛の絶頂である結婚の前に離婚後のことまで考えてクールに取り決めているのが実際的すぎてイヤすぎる。そして、婚前協議書を取り交わしても結婚したいということは、財産目当てなんかじゃないという誠意を見せつけることにもなるところがおもしろすぎる。
 離婚後の慰謝料目当ての結婚ならば、当然婚前協議書なんて邪魔にしかならないから、どうやって相手に婚前協議書を出させないか四苦八苦するという話になるのかと思ってたら、むしろ自分から「愛の証明」として婚前協議書を取り交わそうとするのでビックリしますね。そして、相手に婚前協議書を渡してすべてを委ねたかに見せかけておいて、相手の心理を微妙に操って愛を錯覚させ、相手の手で婚前協議書を破らせる、この手管がたまんねー。離婚に際して絶対の効力を持つ婚前協議書を取り交わすのは永遠の愛の証明だと錯覚してしまうけれど、取り交わしても破ってしまえばただの紙切れなのだというところがクールでおもしろいね。
 離婚裁判に関しては凄腕だけれど、百戦錬磨の離婚の達人であるキャサリン・ゼタ・ジョーンズモナ・リザばりの謎めいた微笑を絶やさない)にあっという間に手玉に取られるジョージ・クルーニーの間抜けぶりが楽しいね。飲みかけの水吹いたり、犬に噛まれたり、わかりやすいお笑いが妙に似合っているんじゃよねー。ってゆうか、こうゆう柔らかな笑いの場面がなかったらかなり辛辣な映画になっていただろうなー。
 キャサリン・ゼタ・ジョーンズの華麗な騙しのテクニックが炸裂した時点で終われば普通のコメディなのに、もうひとひねり持ってきてイヤながらもおもしろな結末になっているところが好き。ちょっと『ワンダとダイヤと優しいやつら』を思い出した。