つめたく冷えた月

 ブコウスキーが原作の映画だからアメリカ映画だと思い込んで見てみたら、フランス映画なのでビックリしますね。そして白黒。フランス語で喋ってるのに雰囲気はなんとなくブコウスキーっぽい。でもブコウスキーってこんな短編書いてたっけ? 読んだけど忘れてるだけかもしれないし、読んだことがないのかもしれない。
 最低ファック野郎中年デデと、最低なデデの最低さに時々嫌気がさすけれど腐れ縁が続いているシモンの関係が楽しいね。妹の旦那の家に居候してのらくら暮らしているデデ、音楽が好きでミュージシャンに憧れているのに楽器のひとつも弾けないデデ、すぐ調子に乗って滅茶苦茶なことをしてしまうデデ。デデとシモンが喧嘩したあと、シモンが海賊版のテープを持って様子を見に来たときのすげない態度(でもかなり気にしてる)と、シモンがバカ騒ぎをしたあとで「待ってました」といわんばかりに何事もなかったかのように振舞う態度が情けなくて好き。強がりだけれど寂しがり屋と言ってしまえば、また最低なんだけれど。
 デデとシモンの中年無軌道コンビのデタラメな行いの数々を見ていると、シモンがデデに「二度と口にするな!」と言った過去の出来事(喧嘩の遠因にもなった)は相当ヒドイことだったんだろうなーと思ってみていたら、その過去の出来事は病院から死体を盗み出して死姦したことだったので思った以上にヒドイなーと思った。
 シモンにとって、死姦は忘れたいトラウマではなく、美しい恋の想い出だったところがすごくいい。デデが蒸し返そうとするたびにシモンが怒っていたのは、陰鬱な過去を忘れたかったんじゃなくて、美しい想い出をデデの下品な口で汚されたくなかったからなのね。一夜をともにした名も知らぬ死体を海に流すのは結ばれぬ恋人との別れであり、江戸川乱歩『虫』のように死体をいつまでも手元に置いておこうとしないところがサッパリしていて好き。
 シモンが売春婦のところにいくシーンが好き。ひと通り終わって一服していると、女がペニスバンドをつけてシモンに迫ってくる、そのときのシモンの絶望した顔がおもしろすぎる。男性のホモフォビアのほとんどは、同性と性交渉をすることへの嫌悪感ではなく、自分の肛門を弄ばれることへの名状しがたい恐怖によるものだと言い切れる。