ラオ博士の7つの顔

 原作『ラーオ博士のサーカス』が大好きなので、あの胡散臭い見世物小屋的雰囲気を再現できるんじゃろかーと不安半分期待半分で見始めたら、富野由悠季監督に山羊髭を生やしたみたいなラオ博士の姿にド肝を抜かれる。こんな胡散臭い中国人見たことねー! ノックスの十戒で禁止されるのも納得できすぎる胡散臭さに大満足。
 ラオ博士のテントが素敵すぎる。外見からして普通のサーカステントではなく、積み木を重ねて布をかけたような独特のテントであり、中身は「ラーメン博物館」みたいな室内型テーマパークみたいなつくりになっていて、いろんな胡散臭い見世物を見れるようになっていて素敵。原作に出てくる出し物すべてを網羅してはいないけれど、印象的な出し物はちゃんと見せてくれるので大満足。
 かなり古い映画だから特撮がショボいのは如何ともしがたいのだけれど、特撮のショボさがプラスに働いているような気がする。見世物小屋の楽しさは、いかにも造り物めいた出し物の胡散臭さであり、造り物を造り物として受け入れつつ、薄暗い影にひょっとして本物も混じっていたら楽しいなーと思えるところにあると思う。鏡ごしに見せられる胡散臭いメデューサに激怒して裏側に回ったら、ホントに石になってしまうところが大好き。これを最新CGで再現してしまうと興が削がれること間違いなし。最近見かけなくなったストップモーションアニメの怪物も、限りなく胡散臭い雰囲気でたまらんよね。
 原作との最大の違いは、街を買い占めようとする悪者と、それを阻止しようとする新聞記者の対立という構図があることじゃろか。もともと原作にはサーカスの出し物を順繰りに見せる以外には話らしい話はないので、起承転結のある話にサーカスの見世物を織り込むのは映画的には正しい脚本かも。ってゆうか、原作ではラオ博士は口上以外では大して出てこなかったように記憶しているけれど、映画では主役として大活躍であり、フラリとやってきて街の危機を救ういい人なのでビックリしますね。原作ではメデューサに石にされた人はそのまま放置だったはずだけれど、映画だと元に戻してあげているし。原作の毒の部分はだいぶ希釈されてしまっているけれど、これはこれでおもしろいからいいや。
 パンのダンスと笛の音に誘惑されてムラムラしてしまう未亡人がエロい。脱いだりするわけじゃないけど、頬を上気させて胸をちょっと開けているだけで驚きのエロさに。