スカーフェイス

 トニー・モンタナがキューバからアメリカに来たのが、レイナルド・アレナスと同じ時期だと考えるとふしぎ。アレナスの自伝『夜になるまえに』には、なし崩し的に亡命を認めざるを得なかったカストロが、映画のオープニングで触れられているように亡命者の中にいろんな人間を混ぜ込んだことを書いていたけれど、アメリカに対する嫌がらせで混ぜた服役者という点ではトニーもアレナスも同じなところがおもしろいね。入国審査のときに係官から「おまえはホモか?」と聞かれるところは、アレナスが同性愛者だからキューバで刑務所に入れられていたことを考えるとおもしろい。トニーとアレナスは同じ刑務所に入っていたのかも。
 キューバから来たチンピラがマイアミで成り上がっていく話だから、『GTA』みたいにコツコツと小さなミッションを積み上げていくのかと思ってたら、ものすごい勢いで成り上がってものすごい勢いで頂点を極めてものすごい勢いで凋落してものすごい勢いで死ぬ(最後の銃撃戦は『GTA』みたいだった。手配レベルが5になったら戦車が来ちゃう!)のでビックリしますね。チンピラの生涯というよりも、めくるめくアメリカンドリームの濃縮版みたい。途中下車不可のジェットコースター人生であるとともに、一炊の夢なんじゃろかー。
 アル・パチーノをはじめとして、みんな顔がぎらぎらと脂ぎっているのがすごくいい。限りなく安っぽい音楽も、トニー・モンタナが手に入れる豪邸の安ピカ具合(豪華な椅子に自分のイニシャルをあしらってみる安さ)も、いかにも80年代な成り上がりの雰囲気でおもしろいね。ギラギラと成り上がりたいヤツが成り上がる。駆り立てるのは野心と欲望、横たわるのは犬と豚。
 オリバー・ストーンの映画は説教臭くてあんまり好きじゃないけれど、脚本だけなら我慢できるような気がする。トニーとエルビラがレストランで喧嘩するシーンとか、最後妹のジーンが拳銃を撃ちながら近づいてくるところとか(抱いて! 獣のように!)、言わずもがなのことを言っちゃってるような気がしないでもないけれど、トニー・モンタナのギラギラと安っぽく光る人生には欠かせないような気もする。 
 エルビラってミシェル・ファイファーだったのね。スタッフロールで確認するまで気がつかなんだ。なんか『バットマン・リターンズ』のキャット・ウーマンの印象が強いんじゃよねー。あと、金髪をブルネットにすると、ヤクザの情婦なところとか髪型とかコカイン中毒なところとか物腰とかダンス好きなところとか、『パルプ・フィクション』のミア・ウォレスみたいだと思った。ヴィンセントはトニーみたいにボスの女に手を出さなくてよかったね(でもミアと握手したので死ぬ)。
 アル・パチーノは『ゴッド・ファーザー』のカメラテストで粗暴なソニー役をやっているときには違和感があったのに、粗暴そのものなトニー・モンタナをバッチリ演じているのでふしぎ。ソニー役でもいけたのかも。
 あと、『ゴッド・ファーザー』のコニーといい、『スカーフェイス』のジーナといい、ヤクザ映画に出演するアル・パチーノの妹役はファニーフェイスでなければいけないのですか?と思った。可愛い妹だと妹萌えという見方が出来てしまうので(そうか?)、多少アレな外見だと妹を溺愛する兄の姿(問答無用の家族愛)を描きやすいからじゃろかー。
 あと、皿洗いしているときのアル・パチーノは、なんかやつれたシルベスター・スタローンみたい。赤いバンダナからランボーを想起?