キャリー

 スティーヴン・キングの原作が好きなので、映画版はどうなんじゃろかーと期待半分不安半分で見てみた。狂信的な母親からの自立を目指すキャリーの葛藤や、高校生活の光と影みたいな原作の要素をうまく生かしながら、映画ならではの迫力とかブライアン・デ・パルマ監督の独特の映像が楽しめて満足。
 キングの小説は細かなエピソードを丁寧に積み上げるところにおもしろさがあるから、原作そのまま映像化すると散漫になって失敗しやすいけれど、映画版『キャリー』はキャリーと母親のエピソードに焦点を絞ってかなりうまく刈り込んであるなーと思った。刈り込んだところもあれば原作を元に膨らませてあるところもあって、衝撃的なシャワーシーンの前にバレーボールでヘマをしてつらく当たられるキャリーのシーンを入れることで、その後の初潮→タンポンやナプキンを投げつけられるというシーンにより説得力が出ていてすごくいい。あと、プロムのあと家に帰ってからは原作とかなり違うけれど、映画版は母親の死に様が視覚的に強烈でこっちのほうがいいかも。母と娘の話としてうまくまとまってるし。
 プロムのシーンは圧巻だなー。クレーンを駆使した長回しで登場人物を俯瞰的に写したり、豚の血の入ったバケツに辿り着くまでのカメラワークが、常になにかが起きる予感を漂わせている原作の雰囲気をうまく映画に取り込んでいる。予め巻き込まれる人々と全景を写すことで、後の惨劇がより効果的になっているみたい。キル・ビルでいうと、青葉屋の長回しみたいな効果じゃろか? キャリー大暴走中のスクリーン分割の効果は、とにかくいろんなことが同時に起きている混乱した感じは伝わってくるけれど、分割されることでの迫力不足は否めないので、痛し痒し。
 キャリー役のシシー・スペイセクの演技がすごくいい。最初の頃の怯えた表情、プロムに招かれて晴れやかな顔、豚の血を浴びて虐殺をはじめるときの見開いた眼、家に帰って母親にすがるときの寄る辺ない表情、まさにキャリーが取り憑いたような演技。
 原作のビリーはクリスに誑かされているわけではなく一本筋の通った悪ガキぶりでけっこう好きだったのだけれど、映画だとただのチンピラなのでやや残念。このケツ顎はどこかで見たことあるなーと思いながら見てたら、ジョン・トラボルタだったのでビックリしますね。
 キャリーのお母さんこわいなー。『ミザリー』のキャシー・ベイツも相当こわかったけれど、同じくらいこわい。どっちも信仰(信念)と虐待が癒着しているところがこわい。
 豚の血の入っていたバケツがトミーの頭に当たるところは、映像にするとまったくギャグみたいだ。これが原因でトミーは死んでしまったわけだし、自分が笑われたと勘違いしたキャリーが暴走するきっかけになるのだけれど、悲劇がしょうもない勘違いやすれ違いから起きるのは好き。