ブレーズ・サンドラール『世界の果てまで連れてって』 福武文庫

タイトルと作者名に一目惚れして古本屋で買って、ずっと積んでたのをようやく読んだ。一気呵成に読まないと負けてしまう濃密な語り口がたまらん。

婆さん大活躍小説であり、演劇世界のドタバタ騒ぎなところは、アンジェラ・カーター『ワイズ・チルドレン』を思い出すね。

八十歳近くで男漁りを止めなかったり、ヌードを武器に新進の女優と勝負して勝ったり、でもテレーズは若作りや無理をしてるわけじゃなくて、細かなエピソードを遡ればわかるのだけれど昔から変わらず好き勝手に傍迷惑に生きてるだけなので素敵すぎる。

あと、テレーズをはじめとする凄まじき人々の凄まじき人生の色々がエピソードや人物紹介で終わるのではなく、後々の物語に絡んでくるのが意外に緻密ですごくよかった。

演劇世界のドタバタに終始するのかと思って読んでたら、突然殺人事件が起きてビックリしたりもするけれど、テレーズとパパイヤニスは元気ですか?だれがエミールを殺したの?ジャン(ヴェロール)なんじゃろか?どうでもいいといえばどうでもよいです。

全体的に、まだまだいくらでも語り尽くせる雰囲気なのに、舞台『ごろつきマダム』の大成功と主役であるテレーズのびっくり頓死で終わるので、やや勿体ないような。テレーズの過去を掘り起こすもよし、脇役たちの来し方行く末を摘み食いするもよし、でも終わりは終わり。濃密なテレーズの語り口で支えられてきた小説だから、テレーズが死んでしまえば語り手はいないのかもしれない。