森英俊・野村宏平編『乱歩の選んだベスト・ホラー』 ちくま文庫

乱歩の選んだベスト・ホラー (ちくま文庫)

乱歩の選んだベスト・ホラー (ちくま文庫)

乱歩が直接編んだアンソロジーではないけれど、乱歩のエッセイを元に、乱歩の意図を汲んで編まれたアンソロジー

乱歩も書いてるけど、ミステリーとホラーにはわりと近しいところってあるよねー。「謎(怪異)」が提示され、「謎(怪異)」が如何なる経緯で発生したのかを解明し、「謎(怪異)」を解明し解体することが解決になるという形式上の手続きだけみたら同じものだし。例外がいっぱいあるとしても。

乱歩の好みもあってか、特にミステリーに近い「謎解き」がある作品が多いのが特徴じゃろか。必ずしも本格推理的合理的な解決ではないけれど、霊なり怪物なりというそれなりの「解決」がちゃんと示されているのがおもしろい。語り手とか主人公が探偵役を担ってるし。

ホラーってゆうか、乱歩は「怪談」という言葉を使っているけれど、不思議な話という印象。ラフカディオ・ハーンが著書『怪談』の副題に『不思議なことの物語と研究』とつけていて納得できすぎたけど、あんな感じ。

江戸川乱歩『怪談入門』怪談のおもしろさに気がついた乱歩が、自分なりに分類整理しつつ英米の傑作短篇を紹介するエッセイ。乱歩さんはその短篇のおもしろさを追求することに妥協がないので、平気でオチにまで言及するからおそろしいぜ。しかし、ついオチまで説明しちゃう入れ込みようは大好き。

W・W・ジェイコブズ『猿の手』ものすごく有名な短篇だけど、初めて読むにゃー。願い事をする際のルールとその陰惨な結末、蘇って戸口に立つものなど、この短さで完璧なよくできた話。

ブラム・ストーカー『猫の復讐』猫ちゃんを怒らせたらダメという話のはずだが、どっちかというとハッチェンスンさんのダチョウ倶楽部っぷりが頼もしい好短篇。遊びで鉄の処女に入りつつ、「押すなよ、絶対に押すなよ」って言われてもにゃー。

E・F・ベンスン『歩く疫病』乱歩さんの紹介によると、芋虫的なものに異常に執着した作家らしい。疫病を芋虫状の怪物で視覚的に表現してるところがすごくいい。這い寄る姿は見れるけど、触れないし避けられないのは怖いにゃー。あと、田舎の描写がいい。

コナン・ドイル『樽工場の怪』乱歩の紹介エッセイが様々な作品を比較対照する形なので、色々似た作品が並べられてるのがこのアンソロジーの楽しいところ。『歩く疫病』が怪物的な超常現象でオチをつけたところを、怪物が出てきてしまう豪快なオチが楽しい。不可解な事件がわりと納得できるように終わるのも好ましい。

アンブローズ・ビアス『ふさがれた窓』怖いってゆうか、かなりイヤすぎな話じゃよねー。オチの一文が効いているのは、前半でマーロックの「その後」をキッチリ描写してるからなんだろうなー。

マーガレット・オリファント『廃屋の霊魂』このアンソロジーの中で一番好きな短篇。幽霊の声を聞いた少年が倒れたのは、幽霊に取り憑かれたからではなくて、すすり泣く幽霊に同情したからだという、ある意味期待を裏切る顛末が素敵すぎる。幽霊を助けて欲しいと息子から懇願されて困り果てる父親、懐疑主義で皮肉屋の医者、慈悲深い老牧師という凸凹トリオのゴーストハントはすごくいい。

ウィルキー・コリンズ『ザント夫人と幽霊』いまいちピンと来なかった。男性キャラがどっちもザント夫人に下心ありまくりであり、レイバーン氏はなんか変な手段でザント夫人をメロメロにしたんじゃないじゃろか。具体的には自分の娘を利用して。

ジョージ・マクドナルド『魔法の鏡』現実にはいないのに鏡にだけ映るという、鏡の不可思議さをうまく使った好短篇。

ロード・ダンセイニ『災いを交換する店』災厄を互いに交換できるというのもいいし、それが店で行われるというところがさらにいい。「お店」という魔法がかった場所の雰囲気といい、荒俣宏編『新編魔法のお店』にも入れたい。

W・L・アルデン『専売特許大統領』作り物の支配者ってゆうと、ジェラルド・カーシュ『時計収集狂の王』を思い出すね。なんで作り物の大統領が必要かというと、南米の民衆は最低でも週一で大統領を狙撃する性質があるからだというのが、南米の人たちに大変失礼でおもしろすぎる。この短篇を大衆の妄想的に書き直すとディック『ヤンシーにならえ』『シミュラクラ』になるんだろうな。

H・H・エーヴェルス『蜘蛛』真似をさせていたつもりが、自分が真似させられていたという倒錯と、そのことに気がついたときの恐怖がすごくいい。そして、手記の作者は、そんなにも大ピンチな状況でなんで手記を書き続けるのかとか、そういうようなことを言いてえ。

江戸川乱歩『目羅博士』読んだことあるようなないような。乱歩って、怖いんだか怖くないんだか、真面目なんだかふざけてるのか、よくわからない境目みたいな短篇に味があっていいんじゃよねー(馬鹿は短篇全集でしか乱歩を読んでなかった) 現実と幻想の境目で、現実なら目を背けたくなるような惨劇が、夢の中のようにあっけなく起きてしまうあの雰囲気。目羅博士が自分のマネキンにつられてウッカリ窓枠に登ってしまうところが好き。