ジョン・ソール『殉教者聖ペテロの会』 創元推理文庫

殉教者聖ペテロの会 (創元推理文庫)

殉教者聖ペテロの会 (創元推理文庫)

児童虐待を描くためだけに小説を書いていると言い切れるジョン・ソールが、やっぱり児童虐待するためだけの小説を書いてました。

『暗い森の少女』と、根本のアイデアは同じじゃよね。幼児のころ虐待されたトラウマ(忘れ去られていた)、隠残な伝説に出会うことで奇妙な発達を遂げる(トラウマの持ち主が、トラウマを克服するために伝説との同一を図る)、周囲の人々の誤解や無理解やウッカリで事態がすさまじく悪化するところまで。話の進め方は予想がつくけど、展開はわからないから楽しめた。

現代アメリカ、中世ヨーロッパさながらに厳格なカトリックの戒律が支配する片田舎の、カトリック系の学校が舞台になっているのがすごくいい。そこにやって来た教師が心理学を教えると、カトリックの教義と食い違いが生じ、やがて…という展開の仕方が痺れる。まったくキリスト教とかカトリックの教義を知らないので、カトリックの教義が住民のモラルに根付いている片田舎に起きる漣のような混乱がおもしろすぎる。いまどきなティーンエイジャーでさえ、追い詰められると神に祈ってしまう、この辺りの心理は理解できないけどおもしろい。

聖人とか異端審問とか、心ときめく小道具が素敵。無茶なことをして無茶な殺されかたをしたが故に「聖人」としたり、異端者を無茶なやり方で説得(普通は拷問という)する異端審問とか、カトリックは謎めきすぎ。

舞台設定や展開は素晴らしいのだけれど、最後が腰砕けでわりとガッカリ。全部合理的に説明するのも愚かだけれど、自殺の連鎖にモンセニョルがどうやって関わっていたのかをもうちょっと明らかにしてもよかった気がする。『暗い森の少女』では、オカルトとそうじゃないものの曖昧さが絶妙で、後味の悪さが倍加されてた。けれど、『殉教者聖ペテロの会』は、オカルトとそうじゃないものの境目が、元々カトリックというオカルトよりの舞台装置のせいで完全にオカルト側に振り切れてしまっている。もうちょっと、こう、「どっちなの?」感がないと、すごい変態モンセニョルのすごい祈りの仕業になってしまうのであんまり。

『Punish the sinners』という原題がかっこよすぎる。モンセニョルの狂気を形にしたような言葉すぎ。