ジョン・スラデック『黒い霊気』 ハヤカワポケットミステリ

『見えないグリーン』の前作。本格推理小説の極北まで行っちゃった『見えないグリーン』と比べると、やや食い足りない感じがするけれど、おもしろかったので満足。

交霊術とか、胡散臭い舞台設定が楽しいね。解説でも触れられているけれど、「連続で密室から消失」という、どうしようもないくらい本格推理な事件。普通の小説なら登場人物から「ご冗談でしょう、ファインマンさん」と薄ら笑いされそうなところを、オカルトを絡めることで、ものすごく変なシチュエーションを押し通してしまえるのが素敵すぎる。

オカルトと本格推理の融合といえば、カー『火刑法廷』が思い浮かぶのだけれど、オカルトの処理の仕方が微妙に違っておもしろい。カーもスラデックも、トリック事態はオカルトとは無関係なところに落としている。それ以外のところで、オカルトが存在するか否かの立ち位置が違う。

スラデックはオカルトを全否定しない。オカルトはあり得ないとヒステリックに全否定する登場人物を、一番オカルト信仰に近い場所にいると言わせている。全否定はしないけれど、目の前に起きている現象はすべてトリックで説明できる、故にオカルト自体に対して態度を保留している。これって、仲間由紀恵主演のドラマ『トリック』と同じじゃよね。あと、一時期の山本弘のような説教臭さを感じたりもした。