ジョン・スラデック『見えないグリーン』 ハヤカワミステリ文庫

見えないグリーン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

見えないグリーン (ハヤカワ・ミステリ文庫)

普通にやっとけば普通の話になるはずなのに、とことんまで理詰めでやりすぎて狂った作品にしてしまうスラデックさん。そんなスラデックが本格推理小説を書いたらどうなってしまったかとゆうと、実にまっとうな本格推理小説になっているのでビックリしますね。てゆうか、そもそも本格推理小説というジャンル自体が狂っており、密室殺人だとか、見立て殺人とか、狂った論理を突き詰めるのが大好きなスラデックの手にかかれば、素敵に狂った超本格的推理小説が出来てしまうのは納得できすぎる。

本格推理小説は巨大な機械仕掛け、なかでも自動人形とか仕掛け時計に似ている。あらゆる要素が歯車のように組み合わされ、不気味に軋む機械音とともに、やや不自然な動きでなにかすごいことをやらかす。静かで滑らかな作動じゃないところが本格推理小説のいいところじゃよねー。不穏な音と動きが、来るべき事件を予感させる。

『見えないグリーン』というタイトルからもわかるように、見えているのに見えていないことが推理小説の醍醐味じゃろかー。あとから考えればあからさまに読者に示されている伏線が、最後の最後になって「あー、なるほど!」とわかる悔しさと爽快感。ポー『盗まれた手紙』の時代から、大胆で単純であればあるほど快感は増す。

そして、大胆かつ単純な伏線は、典型的なことに埋没されている。あまりにも典型的なキャラクター造形や展開の中で、理解できない不可思議な事件が相反するようで、最後に「探偵による解決」というピースがはまることで違和感がなくなり、すべて納得できるところが好き。不気味な機械人形の外面が取り払われて、動きのすべてがわかる瞬間が好き。

素人探偵の素人っぷりがかわいそう。とても愛せるキャラクターだったので、殺されたのが確定したあとも、なんとなく生きているんじゃないかにゃーと思いながら読んでいた。法月綸太郎『生首に聞いてみろ』みたいに。

登場人物それぞれの一見ほのぼのするような人物造形は、ひどい殺害方法とか犯人の鬼蓄ぶりと好対照すぎる。本格推理小説における登場人物のおめでたさ、のんきさ、青臭さは、事件の残虐性とセットであり、つまり、事件と同じくらい彼らも狂っているのだ。

凝りすぎて狂った本格推理小説に、ちゃんと理詰めの解答があるのがいい。狂ってるほどに論理的な回答があり、論理的であるがゆえに狂っている。