T・S・ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』 河出文庫

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

カリブ諸島の手がかり (河出文庫)

『カリブ諸島の手がかり』あらすじ。ポジオリはアメリカの大学の心理学の教授だか講師だが、どうも「名探偵による推理ってどうなの?」という呪いがかけられているみたい。列強各国の支配するカリブ諸島の行く先々で素人推理をして間違ったり、無闇に評判が先行したりする。でもまた間違うよ?お楽しみに。ちょっと目を離したすきにまた間違えぬいていました。

探偵気取りが推理を間違ってギャワーといえば、アントニイ・バークリーが生み出したすごい探偵ロジャー・シェリンガムを思い出すけど、ポジオリさんも同じ種類の探偵だと言い切れる。「探偵は、あらかじめ作者から真相を知らされており、作者の手駒として物語=事件の解決をする機械装置である」という、何故かわりと所与っぽくなっているお約束から解放されて、ポジオリさんは華麗に推理を間違えまくる。間違いに気付くと、また推理を組み立てる。結果、ポジオリさんは真相にはたどり着くが、時既に遅かったり、利用されるだけで終わったりもする。それでも評価は上がりつづけ、ポジオリさんも調子に乗ってしまうからおそろしいぜ。名探偵に対する悪意に満ちすぎであり、バークリーの探偵に対する仕打ちが日曜学校のようだ。

『亡命者たち』 何も知らない犠牲の羊、ポジオリさん登場。最初から間に合っておらず、でも素人なのに頑張ったのでえらいと思った。亡命者の逃げっぷりがおもしろすぎる。

『カパイシアンの長官』 早速「名探偵」という肩書きをものすごくいろんな意味で利用されてるポジオリさん。心理学と魔術が同じレベルで理解されてるのは納得できる。「高度に発達した科学は魔法と区別がつかないっちゃ」ラム先生口調のアーサー・C・クラーク先生!
アンリ・クリストフの要塞って、カルペンティエル『この世の王国』に出てきたっけ。
あと、「ただの独裁者と、心を読む独裁者、どっちがいい?」という話も納得できすぎる。

『アントゥンの指紋』 トリックはわからなくても、最初から怪しい人物は読者に見え見えなので、「ポジオリ、うしろうしろ〜」と叫びながら読むと楽しすぎる。

クリケット』 名探偵気取りでカリブ諸島の人たちから噂されたら恥ずかしいし…とか思い悩んでいたポジオリさんだったのに、ついに名探偵としての自覚を持ってしまうまでがおもしろすぎる。ポジオリさんは事件の証拠をパーツ単位ではいいところまで行っていたのに、事件の真相は大きく見誤っていた。ポジオリさんは結果的に正しい真相の近くにいただけで、真相にたどり着いていた別人の悪意に近い協力のお陰で「名探偵」としての面目を保つことが出来た。
「名探偵ポジオリ」の捜査に協力した証言者たちは、事件解決後のインタビューで、ポジオリさんが言ってない名推理を「思い出す」からおそろしいぜ。名探偵の存在を信じたい人がいるから名探偵が生まれるんじゃろか。

『ベナレスへの道』 そして名探偵になってしまったポジオリさんの末路がこんなことになってしまうなんて、あの時は思いもしなかったのです…
謎インド系トリニダート・トバゴ人の謎習性は、マイクル・イネス『ハムレット復讐せよ』の謎インド人の謎習性と同じくらい納得できる。