ジャック・ケッチャム『閉店時間』 扶桑社ミステリー文庫

閉店時間 (扶桑社ミステリー ケ 6-9)

閉店時間 (扶桑社ミステリー ケ 6-9)

なにを読んでも『隣の家の少女』の印象が抜けないケッチャムさん。中短篇集だから「なんかの間違いで、ちょっといい話が混じってたらどうしよう」と変な心配をしながら読んでたら、解説で「ちょっといい話はケッチャムらしくないから収録してないです」と断ってあってずっこける。え…ちょ…安心なようなガッカリなような。

ケッチャムの作品は、代表作『隣の家の少女』に見られるように、胸糞悪くなる悪の暴虐っぷりが凄まじい。その一方で、巨大な悪にささやかな抵抗をする人々の存在を忘れてはならない。結果命を落とすことになっても、彼らは抵抗を諦めない。守るべきものを持たない者たちと、守るべきものを守るために命を賭ける者たちの戦い。描写は最悪でも、基本的に読後感が悪くないのはそのせいだと思う。

閉店時間911自爆テロ直後の描写がいっぱいでてくる。テロという絶対悪に立ち向かう市民という構図はケッチャムさんが好きそうだけど、実際はショックでかすぎたんだろうなー。バー強盗の心理描写がすばらしい。なるほど、恐怖で他人を支配するのはこうやればいいんだというイヤな説得力が最高です。

ヒッチハイク』 解説に「タランティーノ映画の脚本みたい」と書いてあったけど、マリオンが警官殺しにウットリしてしまうところは、『トゥルー・ロマンス』みたいだと思った。
ファック野郎どもに監禁された女弁護士が、毒を制するには毒と言わんばかりの策を弄して、ファック野郎どもが好き勝手絶頂から叩き落とされる展開はおもしろすぎる。
グレンリベットをガブ飲みは絵になるが、ラフロイグだったら嫌すぎる。

『雑草』 ものすごく淡々と書いてるけど、内容はひたすら糞野郎の描写なのが嫌すぎる。糞野郎がおそろしいのは、およそ内面と呼べるものが存在せず、その場限りの快楽を、他人の犠牲をものともせずに反復しつづけるからなんじゃよねー。

『川を渡って』 マカロニウェスタンと変な儀式が出会っちゃったのかー。西部劇に凝ってみようと思った時期があったんだけど、映画はともかく小説や資料でいいのが見当たらなかったんじゃよね。