ジェラルド・カーシュ『壜の中の手記』 晶文社

壜の中の手記 晶文社ミステリ

壜の中の手記 晶文社ミステリ

カーシュは、ちょっと前に話題になったときにはあんまりピンと来なかったのだけれど、異色作家短篇集『棄ててきた女』に収録されてたのがおもしろかったので、引っ張り出して読んでみた。

おもしろいけど、全部カーシュだとちょっと飽きるなと思った。あんまり起伏がないんじゃよねー。アンソロジーに一篇でちょうどいいかんじ。

『豚の島の女王』 フリークスたちが流れついた島で自滅するまでの軌跡。手足のない女王ラルエットは絶対王政を施いたわけではないが、ゴールディング蝿の王』的な衆愚に押し潰されてなお美しい。

『黄金の河』 トクテという謎ゲームが楽しい一篇。ルールがよくわからなくても、ルールに沿って何かが行われている雰囲気が好き。ナボコフ『ディフェンス』とか、クーバー『ユニバーサル野球協会』とか。

『ねじくれた骨』 善意が善意になっていない可能性があるから、カルチャーギャップっておそろしいぜ。特に人食いの文化がある人たちとの間には。

『骨のない人間』 ラブクラフトばりのコズミックホラーかと思いきや(わりと口にするのも憚られるような名状し難いアレがナニする)、とってつけたようなオチが好ましい。

『壜の中の手記』 アンブローズ・ビアスの失われた足跡を追う話と言えば、フエンテス『老いぼれグリンゴ』を思い出すけど、ビアスといえど晩年が不明という事実から、こんな『注文の多い料理店』みたいな消息をつくられるとはよもや思うまい。うっかりメキシコで行方不明になるとおそろしいにゃー。

『破滅の種子』 ガラクタにでっち上げで作られたはずの伝説が、何故か本当になってぎゃわー。ホープダイヤの逸話とかも、この程度から始まったのかも知れない。

『カームジンと『ハムレット』の台本』 怪盗カームジンシリーズの一篇らしい。義理に篤いカームジンが、ものすごい手間をかけて「ベーコン=シェイクスピア同一人物説信奉者」をひっかける手並みが楽しい。映画『マルサの女』の帳簿偽造シーンを思い出した。

『刺繍針』 ちょう不可能犯罪が楽しすぎる。子供に心を許してはいけないのだ。

『時計収集狂の王』 仕掛け時計と自動人形は近しい関係にあるけれど、じゃあ時計収集が趣味の王様が自動人形だったら最強じゃね? という、ある意味奇想が極まっちゃった一篇。なんで語り手はわりと地獄すぎる状況から脱出するどころか、金と名誉と嫁さんをゲットしてしあわせいっぱいなのかとか、そういうようなことを言いてえ。

『狂える花』 マッドサイエンティストの野望が、計画的うっかりで潰えるところが好き。

『死こそわが同志』 兵器開発のエスカレートを皮肉っているというか、エスカレートがエスカレートしすぎてるところが好き。対抗手段を開発→対抗手段が効かない超兵器の開発の行く末のオチはわかっていたけれど、まさかこんな嫌なオチだなんて。