アヴラム・デイヴィッドスン『どんがらがん』 河出書房新社
●アヴラム・デイヴィッドスン『どんがらがん』 河出書房新社
どんがらがん (奇想コレクション) | |
![]() | 殊能 将之 おすすめ平均 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
収録作品;
ジュディス・メリル編『SFベスト・オブ・ザ・ベスト』(http://www.h2.dion.ne.jp/~vain/book/log/200412.html#10_t1)に収録されていた『ゴーレム』がおもしろすぎたし、当時も今も大ファンの殊能将之のセレクションであり、出た直後に買って読んで大満足だった記憶はあるのだけれど、読み返してみたらサッパリ覚えちゃいないのでビックリしますね。エステルハージ博士シリーズは入ってないし。やはり読書メモは大切だとわかった。
『ゴーレム』 僕が読んだ初めてのデイヴィッドスン作品であり、これがおもしろすぎたのでデイヴィッドスンという作家の名前を覚えたのだと言い切れる。前回読んだときとまったく印象がかわらずおもしろすぎる最高傑作なので、感想も全文引用。「どこをどうとは言えないけれど変な話で大好き。奇想コレクションで出る予定のデイヴィッドスンの短篇集も読んでみたくなった。この話の教訓は、人類を超えるべく活動を開始したすごい人工生命体ならば、ちゃんとその脅威を理解し恐怖してくれる人のところに行くべきであって、サッパリ話を聞いてくれない爺さん婆さんのところに行ってはいけないということです。まして、ユダヤ人で「ゴーレム」の逸話を信じているような頑迷な人のところには」
『物は証言できない』 奴隷制のころのアメリカ南部を舞台にした物語。奴隷制度の色濃く出てるアメリカって、モラルと現実がアンビヴァレントなかんじでおもしろい。黒人奴隷が物として扱われている、という設定(しかし、かつての現実でもあったのだ)をうまく使った佳品。
『さあ、みんなで眠ろう』 『物は証言できない』をSFに置き換えたような話。ティプトリー『ネズミに残酷なことが出来ない心理学者』を思い出したけど、ちょっと違うかも。
『さもなくば海は牡蠣でいっぱいに』 強迫観念めいた話の展開が好き。確たる証拠はなにもないが、ただ状況だけが彼の強迫観念を執拗に裏付けるのでした。全然気にしてない相棒が素敵。
『ラホール駐屯地での出来事』 ちょっとしたミステリー。暴かれた過去が現在につながり、すべてが氷解するところがすごくいい。誰が得をするのか、というのが犯人探しの基本じゃよねー。
『クィーン・エステル、おうちはどこさ?』 南の島からやってきた家政婦クィーン・エステルのキャラクターが愛らしい。あと、シリアルに比べたら、どんな料理だってうまそうに見えるよなと思った。
『尾をつながれた王族』 解説に「ティプトリー『愛はさだめ、さだめは死』に出てくる謎生物みたいだ」と書かれていて、納得できる。外見などまったく想像不能の謎生物の謎生態を、擬人的に書いていておもしろい。
『サシェヴラル』 しゃべる猿が出てくるSF作品なのかと思っていたら、どんどん変な方向に。オチでフリークスものだとわかってビックリしますね。誤解を招くような作品であり、サシェヴラルを勘違いしてたジョージはわりと気の毒かも。
『眺めのいい静かな部屋』 わりとイヤ短篇でありギャワー。老人ホームは想い出だけにすがって死ぬまで生きなければいけない場所であり、その想い出をただ否定されるだけならともかく、物的証拠を握られたら、彼はそうするしかなかったんじゃろかー。
『グーバーども』 大好き。偏屈爺がいかに口車と舌先三寸だけで少年を脅してこき使ったかという、少年の話し振りが生き生きして楽しい。偏屈爺が少年を脅かすためだけに作った想像上の「グーバーども」が実際に現われてしまうオチまで、すべてが好きすぎる。
『パシャルーニー大尉』 孤児だったはずの少年の前に、彼が思っていた通りの、それ以上の非の打ちようのない父親が突然現われる。こんなファンタジーに、納得できるオチをつけてしまえるところがすごくいい。
『そして赤い薔薇一輪を忘れずに』 近所にこんな魔法の本屋があったら、ちょっと行ってみたい。なんかわけのわからん支払方法に幻惑されて尽くして終わるのかと思いきや、なるほど、こうなるのか! 読み終わったあとで題名を見るとすべてがつながるのでおもしろすぎる。
『ナポリ』 なんかよくわからんが、よくわからんなりにおもしろい。僕はダメな読者なので小説の風景描写はものすごい勢いで読み飛ばすのだけれど、ほとんど風景描写だけなのにおもしろく読めた。解説にもあるけれど、洗濯物の描写がすごくいいと思う。なにがどういいのかと言われると困ってしまうが。
『すべての根っこに宿る力』 祈祷師が現実的な力を持っている話なのだけれど、幻想譚ではなくて、バカミスとして十分すぎるほど通用しそうなほうに話が転がっていってビックリしますね。
『ナイルの水源』 具体的なファッションリーダーが実際に存在してしまうからおそろしいぜ。ファッションリーダーはとても気さくでアットホームな家族であり、彼らがテキトーに考え出したことがなぜか大流行になってしまう。まさに流行発信基地なのか? その事実にはまったく無頓着なファッションリーダー一家をめぐって、醜い争いを繰り広げる各勢力のドタバタがおもしろすぎる。
『どんがらがん』 栄えた文明が崩壊し、文明レベルが落ちた世界が舞台。大砲に群がり引き回し周囲の村々を脅迫して回る一団は、しかし、不吉な近親婚の果ての果てに知性を失い、大砲の実際的な使い方を忘れてしまっている。彼らはひたすら「どんがらがーん!」と叫んでいるだけ。そこにあらわれますは、若へイズリップのマリアン。失われた技術を取り戻し、今一度「どんがらがん」の真の威容を見せつけようとするのだが…
主人公マリアンが、まったく好感の持てない嫌なやつなところがおもしろすぎる。どんがらがん一党を懲らしめるのは正義からではなく、どんがらがんを使ってもっと効率のいい徴発をするためだからおそろしいぜ。
うっかり過重装填したために「どんがらがん」を台無しにしてしまったマリアンが、泣き崩れるどんがらがん一党を尻目に、「じゃ、そーゆーことで」とどこかに去っていくオチは、ひどすぎて爽快。