アンナ・カヴァン『氷』 バジリコ

氷山田和子

バジリコ 2008-06-04
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駄目だ。なにがおもしろいのかサッパリわからんちん。氷に覆い尽される終末のビジョンとか、素っ頓狂な登場人物たちの行動とか、イマイチ乗りきれなかったんじゃよねー。きっともうすぐとてつもなくおもしろくなるに違いないと信じて読み進めていたけれど、わりとガッカリなかんじ。

これなら未読のJ・G・バラード読むかにゃー、という感想しか持てないのが正直なところ。てゆうか、最初にバラードの長編読んだときも、なにがおもしろいのかサッパリわからんちんだったのに、今ではバラード大好きっ子(やっぱりなにがおもしろいのかはサッパリわからんちんだが)になってしまったので、カヴァンも何作か読み続けるうちに、わからんながらも好きになるのかにゃー。

どうにも不満なのは、世界に終りが近付いているというのに、語り手「私」のボンクラっぷりがショボすぎるんじゃよねー。ディックの諸作品(とりわけ『去年を待ちながら』)のような、どうしようもないがゆえに感動的なまでにダメ人間讃歌でもなく、 村上春樹世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(http://www.h2.dion.ne.jp/~vain/book/log/200403.html#09_t1)みたいに、ビール飲みながらなんとなく自堕落極まりない終わりを迎えるでもなく、バラードみたいに、わけのわからないながらも熱病的な強迫観念もなく、なんなんだろうこれは。

てゆうか、「私」は変態ストーカーのくせに超絶出木杉くんだからおそろしいぜ。さる大国の諜報機関に所属するらしい「私」は、世界が氷に覆われ滅び行く中で、かつて恋した「少女」を捜し求めて世界中を駆けずり回るのだけれど、札びらで会う人遭う人を薙ぎ倒していくのは納得できるとして、自分の国が滅びてしまったあとは外人傭兵部隊でものすごく大活躍とかしてしまうのはやりすぎだと思った。たぶん、「私」は最初の雪山のところで遭難して死にかけていて、あとに続くストーカー劇は死の間際に見た妄想だと言い切れる。なんか盛んに熱帯のインドリ(キツネザル)のこと気にしてるし。

「私」と「少女」の関係は、悪い意味での「いつか白馬に乗った王子様が迎えに来る」願望の実現じゃろかー。王子と女の子が、合わせ鏡に映った互いの姿に嫌悪しつつ、惹かれ合うという。「待て待て〜」「捕まえてごらんなさ〜い」 しかし、出会えばドメスティックなバイオレンス。これが愛の本質なんじゃろかー。