エレファント

 コロンバイン高校銃撃事件をモデルにした映画みたい。凄惨な事件が起きるまでと起きてからが、すさまじいまでに静謐な雰囲気の中で連続して描かれていておもしろいね。
 事件に居合わせた高校生たち一人一人の日常は、激しいカット割りではなくて、ドキュメンタリータッチで生徒の姿を連続で追い続ける長回しで収められているところがすごくいい。ぐるぐると滑らかに動いて生徒の日常を追うカメラが、歩いている生徒を背後からじーっと付け回していると、なんだか言いようのない胸騒ぎがするんじゃよねー。なにかが起きる予感が背後から迫っているかんじ。『ファイナル・デスティネーション』で言うところの「死の予兆」じゃろかー。
 ある生徒の姿を追い続けている画面の端に移った生徒が、別のシーンでは中心になっていたりしておもしろいね。で、その生徒を追い続けるカメラの端に、さっきまで追っていた生徒の姿が見えるところが好き。大好きなサウンドノベルゲーム『街』で、今読んでいるシナリオの主人公が、別のシナリオでは脇役として出ているおもしろさを思い出したりもした。この映画に出てくる人たちは、犯人まで含めて『街』でいうところのバッドエンドに辿り着いてしまったんじゃろかー。
 元々BGMとか効果音がほとんどないのに、さらに音とか声とかが人為的に絞られているのが印象的。銃撃犯のひとりが事件の前に食堂を歩いているシーンで突然喧騒が大きくなるところとか、犯人が銃撃中に黒人の生徒がフラフラ歩いているのをカメラが後ろから追っていくシーンで逃げ惑う生徒の悲鳴が全然聞こえないところとか。
 運動場に置かれた動かないカメラの前で、何人かの生徒が立ち止まるシーンが好き。そこにカメラがあるから立ち止まったんじゃなくて、たまたま立ち止まって何かしているところの前にカメラがあるみたいなかんじで。
 地味メガネっ子が着替えるときにムチムチしていて意外と萌えるにゃーとか思っていたら、すごい勢いであっさり最初に撃たれるのでギャワー。あっけなく撃ってあっけなく倒れていくので悪夢の中の光景みたいかというと、そのあっけなさがとても現実的で信じたくなくなる。犯人たちの鈍い動きも、その鈍さ故にすごく自然で、ここには超人的な動きをするスティーブン・セガールジョン・マクレーンみたいなヒーローはもいないんだと思えてくる。今まで一人一人カメラが追ってきた生徒には、だれが生き残ってだれが死ぬのかなんて伏線があるわけがない。カップルに銃を突きつけた犯人が「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な」と銃口で選んでいるところで映画は終わる。