43話『決戦、油小路』

 ちっちゃな会社でそれなりに腕を振るったから、でかい会社に移籍してもわしはやれば出来る子なんですよ?と自信満々で会議に参加してみたら、そんな胡散臭い会社出身のヤツの話なんてまともに聞いてもらえず、だれも相手してくれないどころか名前を間違えられてこれ以上ないほどの屈辱的な立場でギャワー! 伊東甲子太郎におかれましては、「えー」という鳩が豆鉄砲を食らったようなビックリおもしろフェイスが本当に味があるなあ。今日で見納めと考えると寂しい。
 自分の頭脳だけでのし上がれると自信を深めて新選組を見限って、いざ倒幕派に移籍してみれば仮にも新選組の参謀が末席に甘んじることに。おのれー、これは新選組に在籍したという恥ずかしい履歴のせいなんじゃよー!と大久保一蔵に唆されて近藤を殺そうとする伊東甲子太郎。伊東は武田観柳斎を馬鹿にしていたけれど、薩摩に唆されて利用されそうになっているあたり、じつはこの二人ってわりと似たもの同士じゃよね。どっちも自分の頭脳を活かそうと試行錯誤して辿り着いたのが新選組だったし。武田は新選組しか自分を活かせる場所がないと腹をくくってしがみついていたけれど、伊東はなまじ頭がよかっただけ策に溺れ自分を見失ったのかもしれない。新選組参謀と持ち上げられ門人からは先生と拝み奉られていた伊東、倒幕派の中にある厳然たる派閥主義に気がつきもしなかった伊東こそが、ある意味新選組の中で一番ピュアだったんじゃないじゃろかー。自分の頭脳だけでのし上がるという理想と現実のギャップを埋められずに、近藤を暗殺することで責任を押し付けようとしていた伊東が、近藤に諭されるところは象徴的じゃよねー。自分の力で実力主義の組織を作り上げた近藤、尻馬に乗ろうとして失敗し慌てふためいたところを支配階級に利用された伊東、対照的なふたりが和解をした瞬間。
 しかし、二人の和解を台無しにするのは、やはり近藤が営々と造り上げた新選組であったというのがおもしろすぎる。伊東を暗殺するのが、武田暗殺のときと同じく大石鍬次郎というのがうまいなー。大石は汚れ役ばかりでややかわいそうな気もするけれど、大石の行動=新選組の若手の総意みたいな面があるから仕方ないんじゃよね。周平を快く思わないのも、武田や伊東を暗殺するのも、下っ端たちの本心の表れだから。
 平助の死に様は壮絶だったなー。けっきょく伊東は平助をどこまで信用していたんじゃろかー。実際の伊東の心の内はともかくとして、平助は伊東を信じることに決め、信じることに殉じた。