41話『観柳斎、転落』

 嫌なヤツだったからいい気味だと思ってしかるべきなのに、なのに……今のこの気持ち……もしかして、恋? 雨の日に子犬を拾って「お前も一人ぼっちか」と呟くような勢いで河合耆三郎の墓参りをする武田観柳斎の後姿にちょっとキュンってなっていたら、ギャワー! 観柳斎フォーエバー!(大空に派手な扇子でキメ)
 思えば、コンビを組んでいた谷三十郎と違って、武田観柳斎は落ちれば落ちるほど味が出るいいキャラクターだったなあ。プライドばかりで役立たずと一言で斬って捨てるには人間臭すぎる。頼られるとついつい喜んで安請け合いして立場が悪くなると逃げ出してしまうところとか、なんとなく憎みきれないんじゃよねー。池田屋事件のころは有能で役に立っていただけに、その後活躍の場を失って少しずつジリジリと落ち続け、必死にあがき這い上がろうとしてさらに立場を悪くする観柳斎の軌跡は、へこたれない観柳斎のキャラクターがあってこそ見ていられたような気がする。「剣ではなく己の才覚だけを頼りに」という言葉どおり、居場所のなくなった新選組を脱走して再就職先を探し回る様は、落ちたとはいえ泥を啜っても這い上ってみせる根性があってけっこう好きだった。同じような立場でうまいこと世渡りしている伊東甲子太郎とは対照的なんじゃよねー。浮浪者に身を落としてまでも探し続けた己の居場所、伊東甲子太郎にすげなくあしらわれ、西郷吉之助には犬コロのように扱われ、けっきょく行き着いた先が元の新選組だったというところがすごくいい。つかまって不貞腐れていると「生きて役立て。それが今まで死なせた隊士への償いだ」と近藤に諭され涙を流す観柳斎。いい流れだ。

「……副長。誰に捨てられた訳でもない、生れ落ちたそのとき、捨てられたやつもいるさ。そいつは生きていく為に今度は自分で世間を捨てる。どこかにいるはずの主人を求めてな。
 あいつには国も警察も主人に値しなかった。だからここに来たのさ
 そのために体で覚えたたったひとつの芸だ。誰かが棒を投げてやらにゃなるまい」
「それで死ぬことになっても」
原作・押井守/作画・藤原カムイ犬狼伝説』 40〜41頁より

 そんな近藤の想いとは裏腹に、武田観柳斎を裁くのはやはり法度であったというのがうますぎる。幕府直参となった近藤は、新選組が成り上がるための必要悪だと認識していた法度の停止を土方に提案し、土方も納得している。しかし、法度によって大きくなった新選組は、すでに法度とは切り離せなくなってしまっていた。近藤たちにそのつもりはなくても、新選組を脱走した平隊士たちはどうせ法度違背で切腹だと早合点して勝手に切腹して死んでしまうし、脱走し連れ戻された武田観柳斎は今まで法度違背で切腹させられた隊士の怨みで大石鍬次郎らに斬られる。機械のように正確に容赦なく違背した者を次々に血祭りに挙げてゆく法度は、『ファイナル・デスティネーション』や『デッド・コースター』の死の筋書きみたいだなーと思った。一度は法度から逃れた谷周平も、いずれまた順番が回ってきて法度に殺されるんじゃろかー。
 坂本龍馬が方々で厄介者扱いされ始めたみたいでおもしろい。西郷吉之助が、人間としては好きだけど、政治的には邪魔と言っていたのが印象的。これで捨助佐幕派以外にも龍馬殺しの容疑が広がったわけであり、誰が龍馬を殺したの? 「それは私」と誰が言うことになるんじゃろかー。
 直参取立てに大喜びする近藤と土方が立場を忘れて「トシ!」「カッちゃん!」と抱き合うところがおもしろかった。人が通りかかってそ知らぬ顔で髪を直す土方。「私の出世は部下の生活の安定にもつながるっちゃ」 その声は、ラム先生口調のランバ先生!