狼たちの午後

 『ゴッドファーザー』で兄弟を演じたアル・パチーノジョン・カザールが出ているので見てみた。クールな銀行強盗映画だと思ってたら、なんかグダグダのグチャグチャになってしまうのでビックリしますね。
 とことんスマートではない銀行強盗たちのドタバタが、それでも完全なコメディタッチにならないのは、実話の重みというのもあるのだろうけれど、やっぱり脚本とか演出とか俳優の演技に拠るんだろうなー。仲間の1人が強盗をはじめるときに「やっぱり帰る」と帰ってしまったり、プレゼントに偽装したライフルを取り出すときの手間取りよう、家族に説得させようとして出てくるのが煩いだけの妻と母親、同性愛者の恋人を女性の体にする資金を調達するために銀行を襲ったという動機は、ひとつひとつを取り出してみればどうしようもないドジな銀行強盗のドタバタ喜劇にしかならないのに、丁寧につなぎ合わせることで人生にテンパってどうしようもなくなった1人の人間の姿が浮かび上がってくるのがおもしろいね。なにもかもがうまく行かなかった男が、銀行強盗でもまた失敗してしまう。彼の泥縄な思考やドタバタはスラップスティックじみていておもしろいのだけれど、おもしろければおもしろいほど人生のままならなさも同時に伝えているところがうまいなー。
 銀行強盗のあまりのドジっぷりに、つい協力的な行動をしてしまう人質たちは、ストックホルム症候群を体現していておもしろいね。ほとんど空っぽの金庫を前に呆然とする強盗たちに、「あんたたち、なんの計画もなしで押し入ってきたの?」と叱責する女性行員。次第に打ち解け運命共同体として行動するようになる犯人と人質たち、しかしバスに乗って空港に行き、いざ外国に脱出する段になると、やはり犯人と人質でしかないのだ。FBIの巧妙な作戦で仲間を射殺されたソニーは、取り押さえられながら、解放の喜びに咽び泣く人質たちを見ることになる。
 アル・パチーノ演じるテンパった銀行強盗の演技はおもしろいなー。マイケル・コルレオーネの冷静沈着な印象が強いから、取り乱したり立ち直ったりやや躁鬱気味の極限状態を演じているのが意外でもありおもしろくもあり。そういえば『ゴッドファーザー』の特典ディスクに感情的な人間であるソニー(そういえば『狼たちの午後』の役名もソニーだ)を演じるアル・パチーノが収録されていたことを思い出した。あと、ジョン・カザールは『ゴッドファーザー』や『ディアハンター』のヘタレな役の印象が強いけれど、『狼たちの午後』ではアル・パチーノの相棒であるややナーバスなベトナム帰還兵を演じていて、こうゆう繊細な役が得意だったんだと改めて思った。
 市警の警部役の人は『スティング』の悪徳警官も演じていたらしい。わりと典型的な役所なので、似ていて当たり前だと思っていたけれど、本当に同じ人が演じていたとは。