フィリップ・K・ディック『ドクター・ブラッドマネー』を読み終わる。「博士の血の贖い」とかいうサブタイトルがついているので、『ジャイアントロボ』のシズマ博士みたいな博士が「これが私の命を賭けた償いだー!」とか言ったりする話かと思ったら、微妙に違った。核戦争勃発の余波で、火星に移民するはずが人工衛星になってしまった男(いっしょに乗っていた妻は自殺に近い死を遂げている)が、散り散りに集落を作って生活している地表の人たちに励ましのメッセージを送り続けるという構図が泣けて泣けて仕方がないので不思議。核戦争で荒廃した世界に住む人々の暮らしを、ここまでしみったれた形で愛情を込めた眼差しで描けるのはディックだけだと言い切れる。
 次は『ラヴクラフト全集』7。